柳澤桂子「生きて死ぬ智恵」を読む

 NHKの「こころの時代」で柳澤桂子さんが般若心経について語
っている番組の録画を見た。柳澤さんの本は今までに5,6冊読ん
できた。難病と戦いながら書いている、透き通ったような、クール
な文体がハートにしみこんでくる。女性生命科学者として、分かり
やすい生命科学の説明もいい。ただ、本の中の、彼女の原因不明の
難病に苦しむ文章を読むと、ちょっと気持ちが暗くなる。
 TVに出た時の様子を拝見すると、彼女の病気の原因、病名が判
明し、それなりの治療法も分かり、かなり健康を回復されたようだ。
 一時は死を覚悟したときもあったという。そういう中で、生命科
学者として、仏教、般若心経に出会ったとの事。
 
 人間は、分子レベル、原始のレベルまで行けば、自分と他人ばか
りでなく、あらゆる生命、山川草木に至るまでつながっている。分
かりやすくいえば、水を飲み、物を食べて、酸素を吸って、炭酸ガ
スをはく、汗をかく、排泄をする、といったことを分子レベルで見
れば、炭酸ガスを草木が吸い、蒸気が雨になり、排泄物は地に還る。
 もとはと言えば、宇宙の創生のとき、宇宙の塵とガスから、星が
生まれ、核融合で原子ができ、分子ができ、水ができ、地球ができ
て生命が生まれたのだ。だから、死ぬということも、生命あるもの
がやがて一生を終え、分子、原子に戻って宇宙に還っていくのだろ
う。それが、また、何万年か、何億年か後に、新しい生命となって
生まれ変わるのだろう。輪廻転生というのはそういうことも言って
いるのかもしれない。
 一方で、自分の生命は終わるとしても、生命が自分の祖父母、親、
、子、孫、・・・と続く限り、DNAの中に分子レベルで書き込ま
れた情報は、すこしづつ形を変える事はあっても、永遠に続くわけ
だ。
 TVは対談形式で、柳澤さんは、そういう内容を話していた。

 私も、フリチョフ・カプラの「タオ自然学」、「華厳経」「唯
識」等の本を読み進むうちに、上記のように、柳澤さんと同じ考え
を強く持つようになってきた。ただ、対談者と「私と、あなたは、
こうして空気という分子を通じてつながっている。・・・宇宙まで
も」という、彼女の実感を持った表現にははっとさせられた。

 番組の中で紹介されていた「生きて死ぬ智恵」(小学館)を八重
洲ブックセンターで買おうと思ったら、売り切れで入荷待との事、
番組で紹介されたから注文が多いようだ。
 今まで、般若心経については30冊くらい、いろんな方の解説、
日本語訳を読んできた。紀野一義中村元さん、松原泰道さん、瀬
戸内寂聴さんなどどれも味わい深いが、柳澤さんのは難病と戦って
きた、生命科学者としての、彼女の般若心経となっているところが
とても味わい深いものになっていると思う。
 ただ、以下のamazonの解説にある、“生命曼荼羅を描き続ける人
日本画家・堀文子”さんの絵はちょっと暗くて好きになれない。
 私の理解する般若心経の世界はもっと明るくクールで、色彩はモ
ノトーンかパステルカラーのイメージで画いて欲しいと思った。

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 柳澤桂子「生きて死ぬ智恵」(小学館

 生命科学者による現代詩訳・般若心経絵本。
当代きっての生命科学者・柳澤桂子と生命曼荼羅を描き続ける人気
日本画家・堀文子が合体! いままでで、最も明晰な日本語と最も
美しい映像で般若心経に込められた「いのちの意味」が感得できる。
リービ英雄の英訳付。