「人類最古の哲学」(中沢新一:カイエ・ソバージュ〈1〉:講談社選書メチエ)

 1年前にこのシリーズ(カイエソバージュ)のⅤ、Ⅳを読んだ。
Ⅴの「対称性人類学」は中沢さんの幅広い学問から生まれた視点にいろんな意味で啓蒙された。

 このシリーズすべて読みたい気もしていたが、ちょっと内容が重たいので、2冊でとどまっていた。最近、「古事記日本書紀」、「神話と日本人の心」、「中空構造日本の深層」、「昔話と日本人の心」等を読んで、このシリーズのⅠ:「人類最古の哲学」を読みたくなった。内容紹介をしようと思ったが中身が濃く、私の表現力でまとめるのは難しいので、amazonの書評や解説から引用いたしました。
 私たちの幼年、少年時代、こういう神話、伝説、昔話はどういう意図で語られ、聞かされてきたのだろうか。小学校の教員だった家内に聞いたが、そんな難しいことは考えていなかったし、知らなかったとのこと。日本人の深層心理、DNAの中に深くしみ込んでいるのだろうと思った。

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

著者の講義録が全5冊のシリーズとしてまとめられた。その1冊目である本書は、神話を手がかりとして、原初の人類が抱いた宇宙観、自然観を探る。大学での講義がもとになっているため、奥深い内容ながら叙述は平易で、ときおり教場ならではのユーモアさえ交えられる。神話学入門として格好の1冊。

国家や一神教が発生する以前、はるか旧石器時代の昔から、人は世界や生命について深い思索をめぐらせてきた。その結果生まれた神話こそ、「はじまりの哲学」と呼ぶべき知恵のかたまりであり、これを研究することが人類の原点を知る糸口になる。

本書の大半を費やして分析されるのはシンデレラ伝説である。この物語に似た伝承は世界中に分布しており、実に多くの神話的要素が含まれているという。著者は最も有名なシャルル・ペロー版をグリム版と比較することからはじめ、ポルトガルやロシア、9世紀の中国にまで広がる類似説話を検証、シンデレラが生者と死者を仲介する存在だといった隠れたメッセージを次々にあぶりだしていく。舞踏会のおり、片方の靴を落とす、というような一見何気ない点にさえ重要な意味づけがあり、ギリシャ悲劇のオイディプス伝説にまでつながっていく。
 日本の神話、古事記や桃太郎、浦島太郎、かぐや姫竹取物語にも言及しながら比較分析されており、現代につながる人間研究にもなっていると思う。

こうした神話解読は、それ自体きわめてスリリングな知的体験だが、決して現代と切り離された学問ではない。神話は常に現実とのかかわりによって生まれ、語られてきた。バーチャル文化全盛のいま、著者はアニメーションやCGを駆使して表現される物語群に形骸だけの神話的性格を感じ取り、警鐘を鳴らす。リアルな現実を生きるためにこそ、神話は解き明かされるべきなのだ、とも述べている。

¶出版社/著者からの内容紹介
神話を学ばないということは、人間を学ばないということに、ほとんど等しいかと思えるほどなのです――(本書より)

宇宙、自然、人間存在の本質を問う、はじまりの哲学=神話。神話を司る「感覚の論理」とは?人類分布をするシンデレラ物語に隠された秘密とは?宗教と神話のちがいとは?現実(リアル)の力を再発見する知の冒険。

この一連の講義では、旧石器人類の思考から一神教の成り立ちまで、「超越的なもの」について、およそ人類の考え得たことの全領域を踏破してみることをめざして、神話からはじまってグローバリズムの神学的構造にいたるまで、いたって野放図な足取りで思考が展開された。そこでこのシリーズは「野放図な思考の散策」という意味をこめて、こう名づけられている。――「はじめに カイエ・ソバージュ(Cahier Sauvage)について」より

¶内容(「MARC」データベースより)
3万年語りつがれた人類の知=神話をめぐる知の冒険。大胆な自然児たちが「感覚の論理」を駆使して語る「はじまりの哲学」とは? 人類学的分布をするシンデレラ物語の驚くべき真実とは? 中沢新一講義録シリーズ第1弾。

¶著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
中沢 新一
1950年、山梨県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、中央大学教授。宗教学者、思想家。著書に、『チベットモーツァルト』(せりか書房サントリー学芸賞)、『森のバロック』(せりか書房読売文学賞)、『哲学の東北』(青土社斎藤緑雨賞)、『フィロソフィア・ヤポニカ』(集英社伊藤整文学賞)など多数ある