猫から熊へ:「熊楠」を読む

南方熊楠」(講談社学術文庫鶴見和子

 水木しげるの「猫楠」(南方熊楠の生涯:角川文庫)を読んで、再度、南方熊楠を読んでみたくなった。
 神戸在住の折、会社の南紀白浜の保養所に行った際、近くに南方熊楠記念館があり、いろんな遺品を見ることができた。以前から熊楠のことは他の人の本で多少は知っていたが、大英博物館で働いていたことがあるとか、アメリカや中南米まで行っていたことや、すごい博覧強記の天才とまでは知らなかった。
 その記念館で熊楠関連のいろんな本が売られていたので、中沢新一が編集・解題した南方コレクションⅠ「南方曼荼羅」を買って帰った。その頃はまだ南方熊楠にそれほど強い興味がなかったのと中沢新一の解題も難しかったので途中まで読んでそのままになっていた。最近読んだ、「人類最古の哲学」(中沢新一)の中で南方が中国の「西陽雑俎」という本の中にシンデレラの類話を発見したことが紹介されていた。南方熊楠が粘菌研究で有名とか、フランスで知り合った土宜法竜(明治期の最も開明的な真言宗の僧侶)との交友の事は知っていたが、民俗学、比較宗教学、自然科学など幅広い学問をしていたことは知らなかった。
 そんなことで改めて上記の「南方曼荼羅」と鶴見和子の「南方熊楠」を読んだ。改めて読み直すと、南方のスケールの大きさに驚き、人間的魅力に感動すら覚える。孫文と親交が厚かった話や、柳田国
男との交流と別れなどの話も面白い。
 八方破れで天才バカボン的なところがあったようだが、日本の生んだ偉大な天才だと思う。西洋の学者と比べてもこれほどの人物そうはいないだろう。肩書き、勲章などのおよそ縁のない(嫌いな)人だったが、もう少し遅い時代に生まれていたら、ノーベル賞が楽々取れた人ではなかったかと思う。