「独酌余滴」(多田富雄)

 多田富雄さんの「免疫の意味論」は今は医者をしている高校時代の友人が薦めてくれた。大佛次郎賞をとったというすばらしい本だ。この本で免疫とは何かを知るとともに、免疫のすごさ、生命の不思議にあらためて畏敬の念を持った。
 その後、「生命の意味論」を読み、「ビルマ鳥ノ木」で多田さんが能にも造詣が深いことを知った。
 表題の「独酌余滴」は多田さんのエッセーということ、題名にもひかれて7年前に購入した。半分くらい読んでその後の2回の転勤で書棚に積読のままになっていた。たしか2001年に多田さんが脳梗塞で倒れられ、その後リハビリをされておられると聞いていた。最近、またインターネットで松岡正剛さんの書く“千夜千冊”の中で多田富雄さんを取り上げていたので書棚から取り出して再度読み始めた。
 1.独酌余滴
 2.去年の手帳
 3.生命の風景
 4.ときの記憶

独酌余滴 (朝日文庫)

独酌余滴 (朝日文庫)

 “生命の風景”の断章は多田さんの専門分野の内容で、“生命の不思議”、“風邪の引き方講座”、“共生と共死”など、どの断章も興味深く、分かりやすく読める。
 「ときの記憶」は、能に関する内容が興味深い、白洲正子さんのことを書いた、「白洲正子さんを偲ぶ」や「匂いのある文章」は白洲正子さんの文章を深く読み込んでいるなと感心させられた。多田さんの「秀麗なる老人」を読んで、醜悪なるHenry老人としては恥じ入るところ大であります。この文章を読んで多田さんはまさに“秀麗なる老人”だなと思った。
 白洲正子さんとは書く内容がまるで違うのだが、多田さんの文章には、冴えた、“秀麗な老科学者の”高貴な匂いのする文章を感じる。
 半身不随で意思の疎通はパソコンでしているという。鶴見和子さんとの往復書簡「邂逅」や、柳沢桂子さんとの往復書簡「露の身ながら」も出されているという。

 昨年12月4日NHKで「脳梗塞からの“再生”免疫学者多田富雄の闘い」と題して放送されたとのこと、見損なったので、ビデオか再放送があれば是非見なければと思う。

免疫の意味論

免疫の意味論