新井満、『「自由訳」般若心経』

自由訳 般若心経

自由訳 般若心経

 『千の風になって』を翻訳した新井満さんの『「自由訳」般若心経』を読んだ。
 私は、今までに数十冊の般若心経解説本を読んだ。私の一番のお勧めは、高神覚昇さんの「般若心経講義」(角川文庫)だ。昭和27年に初版が出て以来100版を超え広く読まれている。戦前にラジオを通じて放送された講義の筆録というだけにわかりやすく書かれている。私はこの本を友人数十人に紹介したり、プレゼントした。 瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)さんの『般若心経−生きるとは』も分かりやすい。女性には読みやすいと思う。何人かの妙齢夫人に紹介した。
 最近では、柳澤桂子さんの『生きて死ぬ智慧』もベストセラーとなっている。生命科学者である柳澤さんが難病との戦いの中から感じとった般若心経を科学的に「心訳」したもので、従来のいろいろな仏教者の方の訳よりも一歩踏み込んでいるところがある。しかし、般若心経をいろいろな角度から読み込んでいないと、柳澤さんの訳は別の意味で難しいのではないかと思う。それと、残念なことに挿絵と装丁が暗いと思う。
 
 新井満さんの“般若心経”は、あとがきにも書いているように、91歳の新井さんの母親にも、又、中学一年生にも分かってもらえるようにと、逐語訳ではなく映像的にわかりやすい言葉に置き換えられている。分かりやすすぎて、ちょっと重さを感じられない物足らなさはある。しかし、『千の風になって』に感動した日本人であれば、この『「自由訳」般若心経』にも感動するのではないだろうか。挿入されている写真が素晴らしいのと、「あとがき」に代える十二の断章で語られた彼のお母さんの話が良かった。