「人間のゆくえ」(山折哲雄+多田富雄)

 図書館で見つけたこの本、多田富雄さんと山折さんがどんな対談をしているのかと借りて読んだ。免疫論、遺伝子論、脳と免疫の話、多田さんの創作した、現代能「無明の井」にふれながらの、臓器移植、脳死についての対話などどれも中身の濃い対話だ。
 免疫には「自己」と「非自己」を判別し非自己を排除するだけでなく「寛容=トレランス」という非自己との共存という戦略があるという。免疫の世界、奥が深い。男と女、夫と妻、国と国、異なる文化、宗教の間の関係も、自己vs.非自己という対立関係だけでなく「寛容=とれらんす」の精神、こころをもってお互いに対してもらいたいものだと思う。
 多田富雄さんは4年前に脳こうそくで倒れ、リハビリを続けられているという。最近ではなんとかPCで執筆活動をされるところまで回復されたようだ。その後どうされているのだろうかと、インターネットで検索したら以下のような記事が載っていた。
http://my.reset.jp/~comcom/shinryo/tada.htm
 知らなかったが、今年3月の診療報酬改定で、医療保険の対象としては一部の疾患を除いて障害者のリハビリが発症後180日を上限として打ち切られるという。多田さんの訴えによると、多額のリハビリ費用が払えない人には、リハビリを受けることが出来なくなり患者に死を宣告するに等しいという。
 これも政治の問題だが、なんとかしてもらいたい問題だ。
多田さんの本は、医者をしているわが親友から約20年前に勧められ、「免疫の意味論」という素晴らしい本を読んだのが初めだった。その後、「生命の意味論」「ビルマの鳥の木」「独酌余滴」や、他の人との免疫関係の対談集などを読んだ。「独酌余滴」の中で、白洲正子さんについて書いている文章など素晴らしかった。
 まだリハビリを続けておられるとのことだが、PCの助けを借りてもっといろいろと書いてもらいたいと思う方だ。