「不思議な数 eの物語」(E.マオール:岩波書店)

 「博士の愛した数式」を読み、映画を見て、そして、“オイラーの公式”を復讐した。たまたま、図書館で上記の本が目にとまった。“e”のことをもう少し読んでみたくなり、借りて読んだ。
 自然対数eの発見に至るまでの色々な数学者の研究、経緯等が面白く、かつ、わかりやすく説明されている。
 ニュートンライプニッツ微積分の発見に関する、どちらが先かの論争が面白い。イギリスが国をあげてニュートン支持、ヨーロッパ大陸ライプニッツを支持したなどの話は初めて知った。
 又、ヨハン・セバスチャン・バッハとヨハン・ベルヌーイの二人の想定対話は目からうろこでした。
 バッハは音楽の名門家、ベルヌーイは数学の名門家。二人はともに17世紀の人だが出会うことはなかった。著者のオマールはこの二人が出会っていればという想定で仮想対話を書いている。
 バッハは純正律音階では途中で転調した時に微妙に音のずれが発生するので、オクターブの音を12の等しい周波数比の半音からなる等分平均律音階を考えていた。ベルヌーイはその平均律音階を対数螺旋という数学で明快に説明するという筋書きだ。
 対数螺旋というのは学生時代に勉強したことがあるが、すっかり忘れていた。オーム貝やサザエの形、ひまわりの種の配列や、牙、角の成長、果ては、渦状銀河の形までも、この対数螺旋をなしているという。なぜ、生命(生物)や宇宙がこういう対数螺旋を選択しているのだろう。ここにもSomething Greatのかたじけなさに感動する。
 ヤコブ・ベルヌーイは等角螺旋のもつ様々な美しい性質に感動し、自分の墓石には等角螺旋を刻んで欲しいという遺言を残した。しかし石屋の手違い、または手抜きのために彼の墓石にはアルキメデス螺旋(r = aμ) が刻まれてしまったという。
 
 バッハのバロック音楽も好きで、若いころには「平均律クラヴィア曲集」なども聞いた。音楽理論などを勉強したことのない私は、“平均律”の意味など知る由もなかった。

 酷暑の続く中、いまさら何の役にも立たない数学の本を読んで頭を使うのも、亦愉し、でありました。音階の話も奥が深そうだ。ブルース音階のことも勉強したくなった。
 
平均律については、以下のウィキペディアのURL
対数螺旋については夢枕獏の以下のURLが面白いです。
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/2607/SPR/SprYume.htm

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amazonのに「jimmy」という方の ブックレビューがうまくまとまって紹介しているのでコピペさせていただきました。

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 寄り道しながら、eにまつわる話を読み進めていくと、π(パイ:円周率)、φ(ファイ:黄金比)の書物と同じく、数学の歴史、数学者のチャレンジの歴史の再学習になりました。
 寄り道の先の一つが”計算尺”。子供の頃の文具店の店頭のショーケースには高級計算尺が誇らしそうに飾られていました。しかし、私が使い方を知る前にあっという間に電卓に置き換えられていきました。17世紀に対数という概念が発見(?)されて間もなく対数目盛の定規を組み合わせて作られた計算尺が発明されたそうです。20世紀に今風の電子計算機が普及するまで4世紀にわたって科学/技術にとって不可欠のアナログ計算機として使われていたわけです。読み進める途中でたまらなく計算尺を実際に使ってみたくなり、ネットを使って探しましたが、もはや線形の計算尺は全て生産中止になっており、老舗文具店の店頭在庫も底をついてしまったあとでした。ようやく手にいれたのは、円形の計算尺。これはまだ細々と生産されているようです。いずれ、これも買う人が途絶え、思考テクニックの歴史の一つが消えていってしまうのでしょう。
 さて、eの認知が”極限”という概念を生み、それが微積分を育て、複素関数論につながっていく物語は、人間の認知の拡大の歴史そのものです。この歴史的流れの中でものを考えると、学生時代には理解しづらかったことのいくつかが氷解するように直感に訴えてきました。