「日本の伝統美を訪ねて」(白洲正子:河出書房新社)

 図書館で目にとまって借りた。白洲さんの書いたものは好きで今まで十数冊読んだ。どの本も男性的な文章で切れがよく、分かりやすい。また、腹のおさまりもよく、読後感がさわやかでいい。
 この本は13人との対談をまとめたもの。白洲正子は1910年生まれでこの対談をした時は88歳。没年が1998年だからこの対談の後なくなったわけだ。
 上原昭一との「十一面観音を語る」、原由美子との「大人の女は着物で勝負」、山折哲雄との「象徴としての髪」、「西行と芭蕉」、など、どのひとつも88歳と思わせない緊張感のある、かつ知的興奮のある対話となっている。
 河合隼雄との『能の物語「弱法師」』では、あらためて、「弱法師」という能の奥深さを教えられた。「弱法師」の場面である大阪の四天王寺には行ったことがあるが、「弱法師」は見たことがない。ぜひ機会を作って観てみたいと思う。能楽師、友枝喜久夫との『「能」一筋:人生の最後に咲いた花こそ「まことの花」である』では目の(よく?)見えない友枝さんの舞う能、舞台についての会話、能のことなどほとんど分かってない私にとっては次元を超えた会話になっている。対話の内容は分かるような気がするが、これもやはり、友枝さんのような名人の能舞台を観て、理屈ではなく身体で感じなくては分らないのだろう。残念ながら友枝さんも既にこの世にいない。
 鶴見和子との「日本人の美意識はどこへ行った」、津本陽との「明治維新の元勲たちを論ず」なども面白かった。
 鶴見さんもなくなってしまった。韋駄天お正といわれた白洲正子、気風のいい、切れ味のよいこういった女性がいなくなってしまった。こういうタイプの女性作家は現代ではもういないのではないかと思う。
 あの世で、白洲次郎や青山次郎、小林秀雄河合隼雄さんたちと楽しく酒を飲みながら談笑しているのだろう。