黒人Enka Singer、ジェロさんと彼の日本語

 今話題の黒人演歌歌手ジェロさんが、「英語でしゃべらナイト」に出るというので見た。私も彼の演歌はラジオで初めて聞いたときに、お!これは、新しい、うまい演歌歌手が出てきたぞ!と驚いた。アメリカ生まれの黒人歌手と聞いて二度ビックリした。「新堂本兄弟」、NHKの「スタジオパーク」などに出演しているジェロを見て、きれいな日本語を話すのに更にビックリした。
 彼のデビュー曲「海雪」を聴いて、演歌を見直した若い人が多いとも聞いた。彼がテレビの中で話す日本語が美しいのにビックリした。日本語はお婆ちゃんと母親の話す日本語からと、ピッツバーグの高校で日本語を勉強したとのこと。留学経験と日本に来てから5年とのことだが見事な日本語だ。テレビのインタビューでさらっと敬語が出てくる。私自身を含め、今の若い人が忘れていて、使うことのできなくなった敬語を、自然に使っている、ジェロさんの日本語を聞いて、考えさせられた。
 たまたま読んだ、文藝春秋5月号の巻頭随筆に阿河弘之の、「凍結された日本語」と題する一文が載っていた。バンコクにあった瀬戸物屋を営む台湾人のオバサンの日本語に、バンコク駐在の特派員がビックリした記事が載っていた。「あら、それがお気に召しませんようなら、こちらに色違いのがございます」それを聞いた日本人の若い女性、その日本語の応対に圧倒されて、「ハイ、ハイ」とひたすら恐縮の態であったという。
“これは昭和20年の日本語。日本の台湾統治が終了した時点で、オバサンの日本語は凍結してしまったのだ。逆に言うと、昭和20年の敗戦までは、我々もこういう美しい話し言葉を使っていたのだ”と阿川弘之は書いている。
 我が家人も、20年前にLAに住んだ折り、現地に長く住む日本人女性から「貴方の日本語はおかしいわよ」と言われたことがあったという。こう言った女性の日本語も昭和20〜30年代の日本語が“凍結”されていたのだろう。
 我々も、現代日本語の現状を反省し、美しい品のある日本語を話さねばならないと思う。
 ジェロさんがこれからますます良い演歌を歌っていってくれることを願う。ジェロさんが若い日本人のファンを集め、若い人たちがジェロさんの生き方に学び、彼の日本語を聞いて自分たちの乱れた日本語を反省してくれればと、老いの繰り言になるだろうが、期待したい。