「生きる意味」(上田紀行:岩波新書)

 数年前に上田紀行の「がんばれ仏教」を読んだ。若手僧侶が仏教、お寺の改革運動に取り組んでいる様子を紹介されていた。上田さんの考え方、活動に共感を覚えた。近くの寺院でそういう改革運動に取り組んでいる寺があれば、NPO的に協力したいと思っている。
 その上田さんが「生きる意味」という本を書いていたのは知っていた。読んでみようかなと思っていたが、題名があまりにも真面目すぎるので内容もチェックせず読まずにいた。最近、岩波書店が「図書」の中で、岩波新書創刊70年記念の特集として、「私のすすめる岩波新書」を取り上げた。その中で読書人218人のアンケートから50点を選んだ。「生きる意味」も取り上げられていた。
 そんなきっかけで読んでみた。
上田さんは、酒鬼薔薇少年の「透明な存在」の「透明」とは他者から受け入れられるために「自己透明化」していった人間の「透明」さなのであると語る。透明な存在になった自分は生きる意味を見失う。これは、子供だけの問題ではなく、学生、ビジネスマンの中にも蔓延し始めている。
 本のカバー裏の紹介文が以下のように書かれている。
■経済的不況よりもはるかに深刻な「生きる意味の不況」の中で、「本当に欲しいもの」がわからない「空しさ」に苦しむ私たち。時には命をも奪うほどのこの苦しみはどこから来るのか?苦悩をむしろバネとして未来へ向かうために、いま出来ることは何か?生きることへの素直な欲求を肯定し合える社会づくりへ、熱い提言の書。

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 現代の若者(いや、いまや若者だけではない)が“色つきの自分”を抑圧し、“かけがえのない存在”であるはずの自分を否定し、“交換可能な部品”にしか過ぎないと自分を追いつめてしまっている。
 グローバルスタンダードの過度の適応、資本(カネ)の論理と、効率一辺倒の数字に束縛されている生き方からの脱却を提唱している。数字信仰から人生の質を高め、「生きる意味」を創る社会へと、「苦悩」がきりひらく「内的成長」を勧める。
 私が大学を出たときはまさに高度成長時代、求人倍率が8倍だった。毎年売り上げは前年比○%アップ、給料もアップ。みんながあまり疑問も持たずに頑張った。所得は増えて、電気製品などの耐久消費財は年々安くなっていった。
 それがいつから、なぜ、こんな世の中になったのだろう。バブル崩壊、IT社会、グローバルスタンダード、ベルリンの壁の崩壊、ソヴィエトの崩壊、イラク戦争、9.11のテロ、アメリカのネオコン、電脳投資家集団、サブプライムローン問題に端を発する、世界金融危機・・・

 私自身が生きてきた時代、真面目に「生きる意味」を考えながら働いてきたか、子供を育ててきたか、それなりに考えながら生きてきたつもりだが、この本を読んで反省させられるところも多々あった。自分の息子達や嫁さん達にこの本を読んでもらい、「生きる意味」を考えながら、仕事をして子供を育ててもらいたいと思った。
 人生の第三から第四コーナーにさしかかっているHenryの人生、更に充実した「生きる意味」のあるQOL(quality of life)を送りたいと思った。