「露の身ながら 往復書簡 いのちへの対話」:多田富雄・柳澤桂子

 免疫学者の多田富雄さんは2001年5月に突然の脳梗塞で半身不随、嚥下生涯、しゃべることもできなくなった。柳澤桂子さんは遺伝学者だったが1969年に原因不明の難病が発病、病気と闘いながら、多くのサイエンスエッセイを書いている。
 二人の著作は、かなり読んできた。高校時代からの親友が勧めてくれた多田富雄さんの「免疫の意味論」は大佛次郎賞をとった名著で何人もの人にお勧めした。能にも造詣が深く、鼓も打ち、新作能も書いている。アインシュタインを取り上げた「一石仙人」という能も書いている。
 この二人が、すさまじいまでの闘病生活の中で、柳澤さんはベッドで寝たまま、多田さんは左手のみでのキーボード入力でメールに文書を添付して往復書簡を書いた。
 病気と介護の問題、DNA、クローン、環境ホルモン、国際紛争のこと、教育問題、生命科学、能の話など、多岐にわたっている。痛みで文章の入力ができなくなるような状況の中で、いろんなこと、凄いことを書いている。ただただ驚嘆するばかりだ。自分が同じ状況に置かれたら、とてもできないことだと思う。
 多田さんと鶴見和子さんとの往復書簡「邂逅」も素晴らしかったが、この本(対話)もいろいろと考えさせられた。
 多田さんと柳澤さん、このお二人には、病気との闘いが大変だと思うが、まだまだいろいろなことを書いてもらいたいと思っている。

露の身ながら―往復書簡 いのちへの対話 (集英社文庫)

露の身ながら―往復書簡 いのちへの対話 (集英社文庫)