「新・現代免疫物語−抗体医薬と自然免疫の驚異」(岸本忠三・中嶋彰:講談社ブルーバックス)

 友人Sさんの勧めで読んだ。免疫学の歴史、現代最先端の免疫学の状況について、かなり詳しく説明している。折しも、新型インフルエンザが蔓延し、ついに日本でも感染者が発生し大騒ぎになっている。ご存じのように、ウィルスは生命体ではない。2005年に米陸軍病理研究所のタウベンバーガーという人がスペイン風のウィルスの遺伝子を解読して、その情報を元にウィルスを再合成したという。
 ウィルスは遺伝子をタンパク質の殻で覆っただけのもので、大きさは大きいものでも一万分の1mmほど。生命の基本構造の細胞を持っておらず、単独では増殖できない。しかし、RNAもしくはDNAをもっていて、宿主(鳥、豚、人間など)に寄生して、宿主の細胞が持つタンパク質の合成機構を借用し、自分の遺伝子から子ウィルスを作って生き延びようとする。
 通常の病原体は「種の壁」というものがあって、鳥や豚など家畜に猛威をふるう病原体はめったに人を襲わない。しかし、インフルエンザのウィルスはこの常識が通用しないという。事実、1997年、香港で鳥インフルエンザに感染して6人が死んだ。
 インフルエンザウィルスはH−・N−と、Hに16種類、Nに9種類あって、その組み合わせで144種に及ぶ。今話題の鳥インフルエンザはH5N1、Aソ連型はH1N1、A香港型はH3N2、H1N2、H2N2など、テレビなどで報道されている。
 インフルエンザウィルスが始末が悪いのは、RNA遺伝子のために変異しやすいということだ。今回の新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)は弱毒性ということだが、人から人への感染が拡大し、いつ強毒性に変異するか分からないところが怖い。また、豚は人間、鳥のインフルエンザに感染し、インフルエンザウィルスのミキサーと言われているそうだ。ミキサーでこねくりまわされて強毒性になったらかなわない。
 免疫の話に戻るが、免疫というのは、一度「疫」病にかかった人は二度と同じ病気にかからない(「免」れる)ということだ。新型インフルエンザウィルスのように、遺伝子を組み替えてくるものには免疫が働かない。
 この本では、近年免疫学の急速な進歩で、関節リュウマチや乳ガンの抗体医薬の発見の話、その臨床医療状況など詳しく説明されている。また、各種の自己免疫疾患の話など、専門用語も多く、素人には難しいところも多いが、免疫というものの働き、自己免疫疾患による難病の怖さなど、全体としては興味深く読むことができた。