「アースダイバー」(中沢新一)

この本、まだ退職する前に会社のすぐ近くの東京八重洲ブックセンターに並んだ時から気になっていた。その後忘れていたが、たまたま図書館で見つけ、借りて読んだ。週刊誌に連載したものを本にしたという。今までにない発想と想像力で書かれていて興味深く読んだ。 内容は以下のごとくです。

 縄文地図とは、「アースダイバー」(講談社)の著者である中沢新一氏の造語である。沖積層と洪積層がせめぎあう部分を色分けした手製の地図を「縄文地図」と称している。この地図を持って東京を散策し、我々日本人はその祖先である縄文時代からの意識の深層に影響を受けていると分析している。
 本の題名は、アメリカ先住民の神話「アースダイバー」に由来するのだそうだ。それは、"その昔、世界が一面の水に覆われていて陸地がなかった。やがてカイツブリが水に潜って底から泥をもってきて陸地を造った。"と言う内容だ。東京という都市もスマートさの極限のすぐ裏手に、古い時代の心の底から引き上げられた"泥の堆積"、つまり縄文人の意識がある、と著者は分析する。
 新宿の歌舞伎町は、湿地帯であったが、淀橋浄水場を造るため掘り出した土で埋めて造成した。だから今も縄文時代の水、蛇や、女性のエロチシズムと深い結びつきを保っている。また慶応や早稲田など大学の位置する所は、墓地や聖地の一部を切り開いて建設されている。学問や知性には死の感覚が必要不可欠なのだと。
 そのほか湯と水にまつわる麻布・赤坂、超モダニズムの浅草〜秋葉原など、縄文時代人から引き継いできた日本人の心象風景を解き明かす。縄文時代の人たちが強い霊性を感じ、墓地や聖地を設けた場所に、そういう記憶が失われた後世の人が未だに直接的な影響を受け続けている、とも著者は言う。
 本書はこうしてできた東京の地誌とも言える。私のような理科系人間から見ると、発想とその切り口が新鮮に映る。
 私は高校時代から、新宿、渋谷、深川、錦糸町など、東京をあちこち歩き遊んできた(勉強の合間に?)。東京があちこちに、上がったり下がったりの坂道が多いことに気を止めなかった。私の家の墓も三田の慶応の近く、高台のオーストラリア大使館の前にある。そういえば我家の菩提寺だけでなく小さな寺が他にもいくつかある。「アースダイバー」に書かれているようなことなど、考えたこともなかった
 「アースダイバー」を読んで、東京のあちこちが、かって高台や岬、半島だったことや、湿地や入り江、海だったことがうなづけた。同時に東京の町の成り立ち、歴史など、当たり前ではない角度からの見方を教えてもらった。今度東京を散策するときは、この縄文地図を持って歩いてみたいと思う。
 この「アースダイバー」はamazonで色々なレビューが書かれている。中にはとんでもない本だと、けなしているものもある。ご興味ある方は、amazonレビューを読んで、書店で手にとって見てください。東京散歩がお好きな方は是非ご一読をお勧めします。