「『やまとごころ』とは何か−日本文化の深層」(田中英道:ミネルヴァ書房)

 A塾の田中先生の書いたものだ。はしがきで万葉集について触れ、1300年前もの歌:文学が現代でも広く民衆に愛されているのは世界でもきわめて稀なことことだと語る。万葉集は古代の歌だが、「近代」と「古代」の壁を越えた日本人の生の連続性があるという。
 冒頭に「賢しみと 物言うよりは 酒飲みて 酔い泣きするし まさりたるらし」(大伴旅人)[賢ぶって物を言うよりは、酒を飲んで酔い泣きするほうがまさっているらしい]という歌を紹介しているが、Unchiku Henryとしても耳の痛い歌だ。酒を飲んで賢しいことを言うのはもっと劣るのだろう。

 そもそも、「やまとごころ」の「やまと」とは何なのか。古来、「山処」「山跡」「山留」「山麓」などの字が当てられてきた。田中先生は、契沖、本居宣長吉田兼倶北畠親房折口信夫などの諸説と比較検討しながら、「やまと」は「山人」であるとの説を唱える。先生の説の方が説得力があり、自然だと思う。
 「やまとごころ」をいろんな角度から分析していて、「やまとごころ」を忘れている現代人にとっては目を開かせていただく内容が多い。本の帯には「いまこそ、見直すべき『こころ』三内丸山遺跡聖徳太子法隆寺、『万葉集』・・・、この列島に生まれた精神の根源に探る」とある。

 簡単には内容を紹介しきれないので、目次を参考に書きます。
A.原初神道の形成
 1.原初神道としての縄文文化
 2.日本の神話をどう理解するか
 3.巨大な天皇陵の時代
 4.「神道」としての古墳文化
 5.聖徳太子の思想
 6.聖徳太子と霊魂の発生
B.古き時代の日本像
 7.天武天皇と現人神神話の誕生
 8.古き時代 日本の文化力・通商力
 9.唐文化は「中国」文化ではない
10.「海行かば」の思想
 終.日本人の宗教とは何か

どの章も、通常の歴史書や仏教関連書と異なる観点、つまり、「やまとごころ」というキーワードに関連づけて語られているところが、興味深く、分かりやすく読ませてくれる。
 表紙裏の解説を以下に添付しました。ご興味がある方は是非ご一読を!
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 日本の「宗教」は宗教の体をなしていない―従来から指摘されてきたこうした見解は、それが西洋的な概念で捉えられないというだけにすぎない。日本には、祖先の御霊信仰を基礎に、天皇信仰、自然信仰など、様々な要素で形作られる総合的な宗教観、すなわち伝統的な「やまとごころ」が確固として存在する。いまなお日本人の根本にあるこの精神の原初を求めて、古き時代の日本を振り返る。