「ルポ 貧困大国アメリカ」「報道が教えてくれない アメリカ弱者革命」(堤未果)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

 「ルポ 貧困大国アメリカ」は以前に発行された岩波「図書」の「私の勧める岩波新書」に掲載されてもいて、関心あった。しかし、私はLAに7年駐在し、それなりにアメリカの貧困状況は理解していたつもりなので、あえて読んでいなかった。同じ著者の堤さんが書いた、新潮文庫の「報道が教えてくれない アメリカ弱者革命」が目にとまり読んでみた。
 2冊を読んでみて、ここまでアメリカの貧困状況がひどくなっているとは気がつかなかった。黒人、ヒスパニック系貧困層の実態、貧困故の肥満など、駐在しているときに見聞きしていたものの、私が駐在していたの20年前に比べ、更に貧困度が増したようだ。新自由主義の市場原理のもと、切り捨てられる人々、出口をふさがれた若者、貧困の故にうまく勧誘され軍に入隊する高校生や短大生(コミュニティーカレッジ)が増えているという。
 日本のように医療保険制度が国民皆保険となっていないために、高い保険料を払っている。一度病気になると、高い治療費が払えず、仕事も解雇され、自己破産するものが多いそうだ。
 今アメリカの人口は3億を超えている。その内、6,000万人が一日7ドル以下の収入だという。日本のアルバイトの時給程度しか収入がないわけだ。
 そういう現状の中で、アメリカの高校では「落ちこぼれゼロ法」という法律によって、逆に教育の質の低下を招いている。この法律はていのいい軍の裏口徴兵政策になっている。軍のリクルーターが高校に来て、軍に入れば退役後大学に行ける、学費援助がある、保険にも加入できるなどと、更に愛国心をあおり軍に勧誘する。貧困家庭の高校生は大学に行きたいため、家族の家計をサポートするため、将来の就職のために、やむなく軍への入隊を選択する。そして彼らはほどなくイラクアフガニスタンの前線に送られるというわけだ。アメリカの戦争は、こういうリクルートされた若い兵士だけでなく、民間会社が世界中の貧困層から傭った兵士を使って戦争を継続している。
 それが世界の警察、アメリカの正義のあるべき姿だろうか。
いま、日本、東南アジアの国境問題がきな臭い。この2冊の本を読んで、まだまだ日本は恵まれていると感じる。しかし一方で、日本も所得格差の拡大、失業率の上昇、高齢化に伴う諸問題、円高の問題など、これからの日本の将来を考えると、アメリカの貧困を傍観するわけにはいかない。
報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 (新潮文庫)

報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 (新潮文庫)

 アメリカに駐在した当初、肥満の人が多いのに驚いた。それから20年後、最近の日本では肥満の人がすごく増えてきたように思う。これも単に、食生活の変化だけでなく、アメリカの貧困層と同様所得格差に起因するところも大きいのではないかと危惧する。
 本の題名のごとく、報道が教えてくれないアメリカを教えてくれる。
著者の堤未果さん、ニューヨーク市立大学の大学院を卒業し、野村證券に勤務していたとき、9.11の同時多発テロに遭遇、その後ジャーナリストとして、アメリカの貧困層の人たちに広く接触、アメリカの弱者革命を取材し、著書の中で訴えている。アメリカの現実を知る、衝撃的な本と思う