「内臓とこころ」(三木成夫:河出文庫)

内臓とこころ (河出文庫)

内臓とこころ (河出文庫)

 我家人は私の兄弟から「シーラカンス」というあだ名をつけられている。どこか常人と外れた言動をすることが多いのと、鈍感な小生と異なり、低気圧が近づくと体調が悪くなるなど、気象変動に敏感だ。海や、水族館が異常に好きだ。
 「現代日本人の私にくらべ、君は古代からの遺伝子がまだところどころに残っているのだ」と時々からかう。女性は身体と感情(こころ)が男よりも密接につながっていると思う。そんなことも踏まえて、多田富雄が「男は現象であるが、女は存在である」とも言わせたのだろうか。
そんなことに思いを馳せつつ、三木成夫の「内臓とこころ」を読んだ。
 三木成夫という人は、茂木健一郎の「脳と仮想」(小林秀雄賞受賞作:新潮文庫)を読んで知った。茂木健一郎も大学を卒業したてのころに講演を聞いた記憶が甦ったと書いていた。「脳と仮想」の中で紹介されていた「胎児の世界」(中公新書)を読んだ。
胎児の世界―人類の生命記憶 (中公新書 (691))

胎児の世界―人類の生命記憶 (中公新書 (691))

 胎児の世界は2011年の暮れに読んだ。「内臓とこころ」は、1982年に出版された「内臓のはたらきとこどものこころ」という本が今年の3月に文庫化されたもの。「内臓とこころ」は、「胎児の世界」を出版する前に書かれたもののようなので、内容的には重複するところが多い。保育園での講演を原稿化したものなので、「胎児の世界」とはちょっと違った感じで、気楽に面白く読めた。
 「我々の生命は、この地球上で数十億年前に生まれた最初の生命から、途切れることなく続いてきたものだ。その間、地形や気候の大変動など、絶滅に瀕する危機と度々戦いながら受け継がれてきたのだ」…という、つまり「生命の神秘」「生命の尊厳」というメッセージを、様々な事例を持ち出し、さまざまな角度、次元から、力強く訴えている。
 小生この本に書かれた内容が今日の学説や情報をどこまで踏まえているか分からないが、内容的には納得させられる部分が多かった。 
  生物への太陽、月等の影響、潮汐作用の影響や体内時計、生命の誕生から生物の進化の過程など、科学知識というより、生命の神秘のロマンとして彼のメッセージを受け止めて読むべきだと思う。