「孤愁」(藤原正彦・新田次郎)

 新田次郎藤原正彦の「孤愁」を読んだ。小説嫌いの私としては珍しく、720頁の長編だ。読んでみようと思ったのは、NHKのBSの「父の肖像」という番組で藤原正彦が、父、新田次郎の未完の小説「孤愁」を書き継いで完成すべく、父の「孤愁」にかけた想いをたどる物語が描かれいたためだ。
 この小説、ポルトガル人のヴェンセント・デ・モラエスという海軍士官が日本領事となり、日本人妻と共に、神戸、徳島に住み、徳島で生涯を終えた半生を描いた小説です。日清、日露戦争第一次世界大戦の時代背景の中で、日本、日本人、日本文化を愛し、数奇な孤愁を味わってきた、ラフカディオ・ハーンと同じような人がいたことを知らなかった。
 ”孤愁”という心情はポルトガル人特有の文化、歴史の中で育まれてきたもののようであるが、新田次郎はその”孤愁”の中に日本人にも通底する、心情、感性を感じ取ったのではないだろうか。
 番組の中でも紹介されたFADOというポルトガル民族音楽を聴き、日本の演歌、民謡、などにも共通するものがあると感じた。以前、ちあきなおみがFADOに関心を持ち彼女自身も歌っているのを聞いたことがある。あらためて、ユーチューブで本場のFADOやちあきなおみのものを聞いてみた。本場のFADOはポルトガル語なので歌詞の意味は分からないが、独特の声とメロディーが、切々とした哀歓を伝えて素晴らしいと感じた。
 
 藤原正彦が、父、新田次郎の”孤愁”をどこから、どう書きつないだかにも関心があり、読み進んだが、後書きを読むまで分からなかった。
 
 いささか、読み終わるのに時間がかかったが、当時の日本を回顧する意味も含め、興味深く読んだ。
 読むことをお勧めしたのだが、長編なので、本を読まれなくても、是非FADOは一度聞いてみていただきたいと思います。