「葉はなぜ緑色なのか」


 新緑の候を味わっていたら、あっという間に真夏のような猛暑の今日この頃である。勤務先のビルの屋上から皇居の緑が一段と鮮やかに見える。

 さて、「植物の葉はなぜ緑なのか」子供電話相談じゃあるまいし、バカにするなといわれそうだ。大半の人が「葉が緑なのは葉緑素のせいである」と答えるだろう。その答えは学校の試験用としては誤りではない。しかし事実は、葉の中に緑色の物質が多く含まれており、その物質を葉緑素と呼んだのであり、葉が緑色なのは、葉緑素があるからではない。緑色だから葉緑素と呼んだのである。
 ということで、なにやら禅問答のようでわけがわからない。
最近、樹木、草木に新しい発見をすることが多く、「生物の超技術:あっと驚く木や虫たちの知恵」(講談社ブルーバックス:志村史夫)を読んで、あらためて「葉はなぜ緑色か」を教えられた。この本からの受け売り、抜粋ですが、これを読んで樹木・草木を眺めると、また別の見方、感動があるのではないかと、ご紹介しました。

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<葉はなぜ緑色か> 
 光は電磁波の一種であり、人間に見える電磁波(可視光)の範囲はきわめて狭いということは、皆さんご存知。我々に物体が見えるのは、物体から反射した可視光が網膜に達し、それが視神経を刺激し、その刺激を脳が認識するからである。
 植物の葉が緑色に見えるということは、葉が緑色の光を反射し、他の色を吸収しているということである。また、太陽光線に透かされた葉が緑色に見えるのは、葉が他の色の光を吸収し、緑色の光を透過させるからである。
 緑色植物の光の透過率の波長依存性は、波長が550nm(ナノメートル)付近の緑色の光のところにピークがある。つまり、葉は緑色の光はあまり吸収しない(必要としない)、ということである。葉が緑色なのは、そこに多く含まれる葉緑素の光に対するこの性質によるものである。
 一方、葉緑素の光の吸収特性を見てみると、光の吸収と透過は裏表の関係にある。葉緑素は、波長450nm付近の青色の光と、波長680nm付近の赤色の光を好んで吸収している。
 つまり、葉緑素は、可視光の中で波長が長い赤色系の光と、波長が短い青色系の光を利用して、光合成を行っている。

 不思議なのはここからである。
植物(葉緑素)は太陽エネルギーを利用して光合成をしている。つまりどのような太陽エネルギーを使うかは重要なことである。常識的に考えれば強い光の方がよい。ところが、地球に届く太陽光の波長と光の強さ(光度)との関係を調べると、緑色付近にエネルギーの強度のピークがある。
 考えてみると不思議なことである。光の強さのことを思えば、葉緑素はもっとも有利な緑色光を使わないで捨てていることになる。
 現在の植物の光合成のしくみは、数十億年のシンカの結果であるから、葉緑素があえて緑色光を捨てているのには、それなりの理由があるはずだ。それが“植物の知恵”というものだろう。
 光合成のエッセンスは、まず水(H2O)を酸素と水素に分解し、その水素を使って炭酸ガスを還元してブドウ糖、一般的には炭水化物(CnH2mOm)を生成する。このとき、葉緑素は、エネルギーの小さな赤色系の光と、エネルギーの大きな青色系の光を2段階に分けて使っている。
 エネルギーの大きさだけを考えれば、波長の短い青色系の光、紫外光を使えばいいと思うのだが、植物はあえて、エネルギーの小さな赤色系の光も使っている。
 エネルギーの大きな光だけを使うと、求める生成物が得られなかったり、好ましくない分解をしてしまったり、という不都合が生じるのではないか。
 そういうことが、数十億年の“植物の知恵”の“シンカ”なのだろう。
 (「生物の超技術:あっと驚く木や虫たちの知恵」から抜粋)

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 今、われわれは草木の緑色に目や心を癒され、安堵感を覚える。
樹木、草木の葉が緑ではなく、赤やピンクだったらどうだろう。紅葉の時期だったら緑の中の赤やオレンジを楽しめるが、一年中、全ての葉が赤やピンクだったら、人間の精神はおかしくなるのではなかろうか。
 それとも、人間もそれに呼応し赤やピンクに癒しを感じるように“シンカ”したのだろうか。
 
 素直に“緑の葉”の“植物の知恵”を与えてくれた「SomethingGreat」に感謝!
 この本の著者、志村史夫さんは現役の半導体分野の物理学者で大学で物理学も教えている。「恐くない物理学」(最近、新潮社で文庫本が出た)、「いやでも物理が面白くなる」等の本を読んだが、どれも単に物理学について書いているのではなく、自然科学全般の中の物理学、さらに言えば、“全思想=哲学=Philosophy=知を愛する”の中の物理学という捉まえ方のなかで、自然科学、物理を語っている。
 堅苦しくなく、ほとんど数式もなく、自然の知恵を理解させてくれています。
 「半導体シリコン結晶工学」といった専門書のほか、「古代日本の超技術」という日本古代の建築物の超技術についての本なども書いている、マルチタレントの方です。
 今回ご紹介した「生物の超技術:あっと驚く木や虫たちの知恵」は、樹木の知恵、竹の知恵、蚕の知恵、蜘蛛の知恵、について詳しく、かつ面白く書かれており、すべてが、それこそ、“あっと驚き”目が覚める思いでした。
 皆さんも是非ご一読を!