「『脳』整理法」茂木健一郎

「脳」整理法 (ちくま新書)

「脳」整理法 (ちくま新書)

 茂木健一郎は最近売れっ子でテレビにもよく出ている。養老孟司と同様、脳ブームとかで、二人ともたくさんの本を出している。共著も出しているくらいだ。二人ともちょっとイージーに書きすぎではないかと思う。本人たちの問題というより、出版社がこういう本を書かせたら売れるだろうということで柳の下を狙うのだろう。藤原正彦の「国家の品格」後も同様だ。
 茂木健一郎の本はこれほど売れる前に、『心を生みだす脳のシステム―「私」というミステリー 』『意識は科学で解き明かせるか―脳・意志・心に挑む物理学 』天外 伺朗 (著), 茂木 健一郎 (著)『クオリア入門―心が脳を感じるとき』 等を読んできた。天外伺朗との共著は分かりやすかったが、茂木健一郎の本は今ひとつ読みにくい。

 私たち人間の住む世界が「このようになっている」という世界観に関る知:「世界知」と、一人の人間として生きていく中で、生き生きと充実した人生を送るために必要な智慧:「生活知」。必然を追求する科学的「世界知」に対して、「生活知」は半ば偶然的に、そして半ば必然的に起こるような出来事、すなわち、著者の語るところの「偶有性」をもった出来事こそが、科学的方法論では扱いにくく、私たちがいかに生きるかという「生活知」に大いに関る領域という。
 科学者による「生活知」からの「世界知」の切り離しによって、人類は多くの恵みを得たのは事実だが、その一方で、人間にとって切実ないくつかの問題が、科学的「世界知」の中からこぼれる事態も生じてきた。私たちの脳が、世界をいかに認識し、行動に反映しているか、そのプロセスに含まれる「偶有性」の処理の仕方に大きなヒントがありそうだと語る。「二つの“知”が統合されるのは残念ながらまだまだ先のことになりそうですが、“偶有性”を手がかりに人間について考えるだけでも、自分の、そして世界にあふれる他者の生命の輝きが増して感じられることだけは、確かなのです。」と結んでいる。
 なにやら、わけのわからないことを、もしくは、わかりきったことを難しく言っているだけに過ぎないようにもとれる。仏教哲学でははるか昔にこのような問題を扱ってきたように思う。しかし、現代の最先端の脳科学が主要なテーマとして「偶有性」(contingency)をめぐる考察とか、「神経経済学」(neuroeconoics)という、脳の感情システムの働きなどを研究しているという。 一方で、人間の宗教の神秘体験や仏教の瞑想や悟りにも脳科学のメスが入れられている。宇宙や人間の脳、物質の究極、生命(いのち)の不思議が解明され尽くすということは永遠にありえないことだと思うが、少しずつ何かが解明されていくだろうとは思う。
 この茂木さんの本、個々の章は難しくないのですが、話が多少あちこちに散らばって全体としての論旨がもうひとつわかりにくいキライはある。一方、「偶有性」、「セレンディピティー」「アハ!体験」「デタッチメント(detachment)」などの新しい概念を取り上げている所が面白い。通読すれば、彼が何を言いたいのかが理解できる。
 紹介が難しい本です。以下のamazonの紹介もあまり革新をついているとは思えないけどご紹介しておきます。

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おびただしい量の情報やモノに囲まれ、脳が悲鳴をあげている。現代人が、より賢明に清々しく生きるためには、脳をどのように使いこなせばよいだろうか?その鍵は、森羅万象とのかかわりのなかで直面する不確実な体験を整理し、新しい知恵を生み出す脳の働きにある。本書では、最新の科学的知見をベースに、「ひらめきを鍛える」「幸運をつかむ」「他人とうまくつき合う」「チャレンジする勇気をもつ」など切実な課題にも役立つ、脳の本質に即した「生きるヒント」をキッパリ教えます。

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