「日本語の源流を求めて」(大野晋:岩波新書)

 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。『雪国』の冒頭の部分である。この文章の中で「国境」は中国語から、トンネルは英語、「の」という助詞、「白い」「なる」等は、日本語の中でもごく普通のヤマトコトバであると考えるが、大野晋さんの研究によると、これらの単語は、南インドの古代タミル語と意味も使い方も共通であるという。
 もう一つ、『古事記』の本分の最初の部分、
あめつちはじめてひらけしときに、たかあまのはらになりませるかみのみなは、あめのみなかぬしのかみ。
 この文章、28の単語でなっている。タミル語と共通の単語を拾い出すと、あめ、ひらけ、たか、あま、はら、なり、かみ、なか等、20語に達する。文法形式も古代タミル語と基本的の同様であると述べている。
 大野さんは今から1957年に『日本語の起源』を書いて、以来50年日本語の起源、日本語以前を研究してこられた。今年88歳にして『日本語の源流を求めて』と題し、集大成を書かれた。
 大野さんの国語、日本語に関するものは結構読んできた。また大野さんの編集した、岩波の「古語辞典」、角川の「必携国語辞典」などは、格式と品位のある辞典でよく引いている。
 あらためて大野さんの国語学、日本語に対する並々ならぬ情熱を感じる。
 古代インドから稲作や埋葬の文明などとともに、いろいろな言葉が海を渡って日本上陸し古代日本語と融合したと、単に言語学だけでなく、考古学などにもふれながら論証している。又、なぜタミル人が南インドからわざわざ日本にまで来たのかに対しては、日本の真珠が目的ではなかったのかと推論している。
 古代日本語は朝鮮語の影響と見る説もあるが、大野さんは、むしろ、朝鮮語タミル語の影響を受けていると分析する。
 2000年前の「サンガム」というタミルに直接あたり、タミル古典の研究者に助力をもらいながら、現地調査をしながらの論証には説得力があると思う。
 大野さんのこの本、学者というのはここまで“しつこく”研究するものかと驚く。文献や、考古学だけでなく、大野さんの研究のような、言語学を通しての日本の古代を探る知的冒険も、亦、愉しでありました。

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