「イカの哲学」(中沢新一・波多野一郎)

 中沢新一と波多野一郎という人の共著か対談かと思ったが、題名の「イカの哲学」というのにひっかかった。波多野一郎という名前は聞いたことがなかった。中沢新一が何を語ろうとしているのかと書店で手にとった。
 中沢新一が学生の頃、波多野一郎という人が書いた「イカの哲学」という文章に出会って感動した。しばらく忘れていたようが、太田光との対談「憲法第9条を世界遺産に」の巻末で述べたことを、さらに敷衍したいと考えていたところに、この「イカの哲学」が思い出されたようだ。
 波多野一郎という人は元特攻隊員の生き残りで、グンゼの創業者の孫のようだ。早稲田大学商学部から、陸軍に入隊後、航空隊に配属になった。昭和20年7月1日、南満州の基地にいて、特別攻撃命令が下ったのだが、ソ連軍の侵攻により出撃できず、8月敗戦、4年間シベリアに抑留後、日本に帰還した。その後アメリカのスタンフォード大学に留学し、哲学を専攻した。 夏休みのアルバイトでモントレーの海の沖合いで捕れたイカをサンタクルーズの港に運び、冷凍保存するための箱詰作業をした。
 二ヶ月間、毎日イカと向き合って作業をしていくうちに、“イカの実存”に気づき、「イカの哲学」を悟る?ことになる。イカの哲学をなかなか一言では説明できない。しいていえば、イカの実存に目覚め、新しい平和の哲学を語っているとでも言えようか。
 
 中沢新一が、21世紀の平和を考えたとき、この「イカの哲学」を解説し、その意味することの重大さを語っている。内容の詳細はうまく説明できないので、ご関心のある方は是非ご一読をお勧めします。なかなか考えさせられる、素晴らしい思想(哲学)だと思う。