「山水思想『負』の想像力」:松岡正剛


 「雪舟から長谷川等伯へ」という切り口をベースに、中国山水画から日本山水画へと、日本の山水画が中国山水画から、どのように「逸れて」、どのように「引き算」されて、長谷川等伯の「松林図」が生まれてきたかを分析している。
 ほとんど知らない中国の山水画家、日本の山水画家の名前が次から次へと出てきていささか面食らう。禅画教室で達磨絵を描くようになって、水墨画関係の本を数冊読んできたが、水墨、山水画、日本画が、長い歴史を通じて色々な変遷を経てきたことが理解できた。
 法華宗禅宗と山水画の関係。桃山文化の影響。道元正法眼蔵の「山水経」などを引用しながらの松岡流論説が、読み応えがあり、難しいが面白い。山水画だけでなく、日本庭園の枯山水や西欧の絵画との比較なども面白い。私は西欧絵画についてはほとんど音痴だけれど、絵画の好きな方なら勉強になるのではないかと思う。
 私も禅画を習っていなかったら、いくら好きな作家の松岡正剛の本といえども、この本は途中で投げ出していたのでは思う。
 しかし、絵画をやっていなくても、日本人の「山水思想」、日本人の「負」の想像力が生み出した、「山水という方法」は、日本文化、日本絵画の素晴らしさを教えてくれた。
 長谷川等伯の松林図は、だいぶ前に「日曜美術館」で紹介されていた。東京国立博物館に展示されているようなので是非実物を見に行きたいと思う。