「日本美術 傑作の見方、感じ方」(田中英道:PHP新書)

 退職し、隠居道に入る前には、およそ芸術にほとんど縁のなかった小生、禅画を始めたのと、塾に行き始めたことがきっかけで、日本の美術、芸術の見方、味わい方を勉強し始めた。
 田中英道さんは西洋美術が専門ですが、日本美術に関しても造詣が深い。西洋美術との比較の中で説明してくれているのも分かりやすい。
 田中英道さんは別に「国民の芸術」という大著(産経新聞社:750ページ)を書いている。日本の芸術を、古代遺跡、縄文土器、土偶、埴輪に始まり、仏像、仏教、神道、等を日本の歴史;政治、などに言及しながら、西欧の芸術との対比を織り交ぜて、詳しく解説している。聖徳太子空海最澄、源氏などの平安文学、能、城郭建築の文化にまで触れている。法隆寺パルテノン神殿の比較なども面白い。「わび」の陶器、江戸の「国学」を中心とする文化、浮世絵、水墨画、更には、漱石、鴎外など、近代、現代の芸術や、黒沢、小津の映画論にまで及んでいる。
 単なる、日本芸術史ではなく、日本の歴史全体の中での芸術、および、その意味するところを語っているので、どうしてこういう芸術が日本で生まれてきたのかが良く理解できた。
 PHP新書の方はこの「国民の芸術」の縮刷版のようなもので読みやすく、分かりやすく説明している。
 今まで、色々な仏像を見てきたが、仏像の作者について知っているのは、止利仏師、運慶、快慶、湛慶くらいだが、どの仏像が誰の作かまでは覚えていない。
 西洋の芸術では、作者がミケランジェロだ、ダビンチだとか、作者の特定がうるさいのに、日本では何故か作者の個人を表に出さない。有名な興福寺の阿修羅像や世親像、無著像の作者や、東大寺戒壇院の四天王像、新薬師寺十二神将の作者のことなど、日本はもっと作者について語るべきだと、田中英道さんは言う。
 言われてみれば何度か見ているのに、作者のことを考えたことはほとんどなかった。因みに、阿修羅などは将軍万福という人、四天王像などは、国中連公麻呂(くになかのむらじきみまろ)ということを、田中英道さんのこの本から教えていただいた。
 今までに仏像の見方などの本はちらっとみたことはあるが、あまり面白くなかった。今回は、この二冊の本と、塾で聞いたお話から、仏像や寺社の見方、また西洋美術の鑑賞の仕方まで大いに勉強させていただきました。
 皆さんにも、「日本美術 傑作の見方、感じ方」(田中英道PHP新書)はお勧めしたいと思います。