「言魂(ことだま)」石牟礼道子・多田冨雄
その後、多田冨雄さんはどうされているだろうかと思っていた。家人が図書館から「言魂」を借りてきていたので、早速読んだ。
いきなり多田さんの壮絶な闘病生活の話から始まる。脳梗塞からのリハビリの話かと思ったら、前立腺癌の手術、その後の合併症、気管支喘息、筋肉の痙攣、脳梗塞も右半身の完全な麻痺、重度の言語障害でまだ一言も言葉がしゃべれないという。また、高度の嚥下障害という後遺症が残り、食物や水を飲み込むのが困難という。なんという状況だろう!そんな中、幸か不幸か、頭脳は明晰に働いているという。PCの助けを借りて石牟礼さんと往復書簡を交わしている。
石牟礼さんは『苦界浄土−わが水俣病』を書かれているが、私は読んでいない。石牟礼さんはパーキンソン症候群とかで81歳になるが、彼女も病気と闘っている。詩人でもあり、2002年には新作能「不知火」なども書いていることなど、今回この本で初めて知った。
水俣病の発生から、多田さんが訴える病院でのリハビリ180日打ち切りの法改正(改悪)など政府の無策、怠慢を追求している。
以前、私のブログで書かせていただいた、鶴見和子さんとの往復書簡集『邂逅』にもそのことが書かれている。多田さんは弱者切り捨ての厚労省のやり方を訴えているが政府はなしのつぶてという。厚労省は年金問題でもガタガタだが、いろいろな医療制度、後期高齢者問題など、役人と政治家は何をやっているのかと腹立たしい限りだ。桝添さんもそこそこ頑張っているのだろうが、国民一人一人がもっと現実を知らなければならないと思う。
ちょっと政治っぽくなってしまった。とにかく、この『言魂』の往復書簡、多田さんの極限状況の中から紡ぎ出された言葉の重みが突き刺さる。石牟礼さんの“水俣”の話、狂女であったという祖母と実母の話や、水俣の遊女の話など、ずきんと胸に響く。石牟礼さんの新作能「不知火」や、多田さんの東寺での「一石仙人」(アインシュタインと相対性理論→原爆の話を新作能とした)の上演にも話が及び、病をおしてのその上演への立ち会いの話など、深く味わいのある往復書簡になっている。
鬼気迫ると言ったら失礼だろうか、二人の交わす言葉の重さと共に、人間の尊厳といったものを感じる。
やわなHenryは結石くらいでヒーヒー言っている。多田さんの闘病の有様を読むと、とても小生では耐えられないだろうと思ってしまう。その反面、多田さんの精神力、免疫力の素晴らしさを読むと、人間の力、生きる力という観点から勇気も頂いた。
新ためて、多田さんのこの『言魂』はもちろん、『免疫の意味論』『生命の意味論』『ビルマの鳥ノ木』など是非ご一読をお勧めします。