日本語に想う

毎月のA塾に参加した。幹事役のOさんが毎回事前にその日の資料をメールで送ってくれる。今回は「天皇の祭祀」、「国語の品格」、先生の「日本宗教国家の誕生」などが勉強会のテーマ。そのなかで、国語の品格を読んで、日本語について想うところを書いてみた。
“国語の品格”という資料には、武田鉄矢の「贈る言葉」の一節、「暮れなずむ町の 光と影の中 去りゆくあなたへ 送る言葉」や、枕草子の冒頭の一節、「春はあけぼの、やうやうしろくなりゆく、山ぎは少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」などをいんようし、「なずむ」、「あけぼの」などを解説している。
 “なずむ”は「すんなりと進まない」「滞る」という意味で、「暮れなずむ」は「暮れそうで暮れない」という意味になる。「去りゆくあなた」も去りがたい気持ちを抱いているのだろうと説明されていた。
 なずむという言葉の感覚は理解していたが、あらためて辞書を引いたことはなかった。「泥む」と書くことも今回初めて知り、万葉時代から使われてきた言葉だと知った。こだわる、ぐずぐずするという意味もある。「暮れなずむ」等という表現は、西欧語にはない日本人の繊細な感性を表現する素晴らしい言葉だと思う。
 枕草子の冒頭の一節も日本の風景、日本人の感性の中から生まれた素晴らしい日本語だと思う。
 アメリカに駐在し始めてから、改めて日本語と英語の違いにいろいろと気づかせてもらった。現地人とそれほど繊細な会話をしたことはないが、国民性、ビジネスカルチャー、歴史・文化の違いだけでなく、言語とその歴史、言語とその国の文化というものについて多く考えさせられた。
 わたしは、日本語の「はぐくむ」「いそしむ」「いつくしむ」「いとおしい」「いきな」「わび」「さび」などの言葉が好きである。しかし、これらの言葉を英語でどう表現したらいいか、悩んだことが度々あった。辞書をひいても、一語でピタッと合致する単語はなかなかない。こういう言葉は状況に応じて、使う英語の単語を変えるか、その日本語の意味を説明的に英語にするしか方法はない。
 「はぐくむ(育む)」は(「羽包くくむ」の意) 。広辞苑によると、親鳥がその羽で雛をおおいつつむ。が元の意味で、養い育てる。成長発展をねがって育成する。なでいつくしむ。かばい守る。とある。
 和英辞典を調べると、nourish と出てくる。
1a 養う, …に滋養物を与える; …に肥料をやる.
b 育てる, 助長する, はぐくむ. −−−− ちょっと違うんじゃないといった感じだ。
 ついでに、「慈しむ」を調べると love,cherish
cher・ish 大事にする; 大事に育てる; 〈思い出を〉なつかしがる; 〈希望を〉いだく 〈for〉、と出ている。英英辞典を調べても、当然の事ながら、日本語の持っている意味の範囲、ニュアンスとは異なる。その言葉を生んだ国、その言葉を使って長い歴史と文化を営んできたのだから、他国の言葉にそのまま置き換えられない言葉が多いのは致し方ない。
 一年間ラジオ講座でスペイン語を勉強してきた。まだなにもしゃべれない程度の勉強しかできていないが、スペイン語の勉強を始めて、スペインという国の歴史、そしてそのスペインが中南米に進出し、メキシコ、アルゼンチンなど、スペインの中南米植民地化政策を推し進め、先住民をほとんど一掃し、言葉も宗教も変えさせられてきたことを思うと複雑な気持ちになる。藤原正彦の「祖国とは国語」を読んで、“国語”というものについて多くを考えさせられた事を思い出す。
 日本という国、日本語というものが過去に何度かの危機にさらされてきた中で、文化、伝統、言語を守り、発展させてきたことは素晴らしいことだと思う。同時に日本語を守り、育んできてくれた先人達に感謝したいと思う。