「アメリカはなぜイスラエルを偏愛するのか」(佐藤唯行:新潮文庫)

 20年ぶりにユダヤものを読んだ。アメリカ在住当時、社長だった方が読書家で、宇野正美の「ユダヤがわかると世界が見える」を紹介してくれた。それまでは、イザヤベンダさんこと、山本七平の「日本人とユダヤ人」くらいしか読んでいなかった。アメリカで仕事をし、生活する中で、ユダヤ人、ユダヤ社会というものに関心がわいてきたときだった。

 アメリカに駐在して、アメリカにADLとかUJAという組織があることを教えてもらった。UJA (United Jewish Appeal) とは、ユダヤ人抗議連合, ユダヤに関することへの資金集めの機関であることや、ADL(Anti Defarmation League 名誉毀損防止同盟)という組織があり、米国最大のユダヤ人団体。ブネイ・ブリスに起源を持ち、反ユダヤ主義と合法的に対決することを目的としていると教えられた。アメリカの電機業界がADLの下部組織になっていることもそのとき初めて知った。
 アメリカの有力電気小売業はユダヤ人が多いと言うことも教えられた。年に一度ADLの電機業界部会のような大会がニューヨークで開催される。そこで電機業界の功労者などが表彰される。我が社のEastern Region(ニュージャーにある東部支社)の支社長が表彰され、スピーチもあるというので、そのパーティーによばれた。全員タキシード着用の正装ということで、ニューヨークの貸衣装店で、靴、靴下、上から下まで借りた。タキシードの正装というのは、後にも先にも、この時だけだった。
 招待かと思ったら、そうではなく、各メーカーなど関係業者が1テーブル10人の席を当時5,000ドルで買うというしくみになっている。10人全て席を埋めたわけではないので、一人当たり6,7万円に相当する。食事代はせいぜい一人100ドルくらいのものだ。500人くらいの参加者だったろうか。ニューヨークのそこそこのホテルとはいえ、会場費やパーティー費用も一人頭100ドルくらいだろう。
 
 残りの金は? 後で分かったことだが、こういうパーティーからあがってきた金が、上部団体に吸い上げられ、各種団体、個人からの献金などが、アメリカのユダヤロビーに回り、政治家を動かし、アメリカからの毎年のイスラエル援助になっているという。
 アメリカはイスラエルに毎年、経済・軍事援助を30億ドル与えているという。30億ドルといえば1ドル100円とすれば3,000億円という大変な額だ。
 なぜそうしているのか、なぜそうなってきたのかはこの本を読んでもらうのが早い。ユダヤ教キリスト教イスラム教の問題、旧約聖書の時代からのイスラエルパレスチナの問題、イスラエルの建国、中近東問題、いろいろな問題が絡んでいる。
 
 アメリカ駐在時に読んだ「アメリカのユダヤ人」 (岩波新書:土井 敏邦)という本も勉強になった。最近は書店にユダヤものが並んでいなかったが、久しぶりに、この「アメリカはなぜイスラエルを偏愛するのか」が目にとまった。読み終わって、ここまでユダヤロビーのことや、ユダヤマネーのことを書いて、ユダヤパワーからの圧力を受けるのではないかと心配するくらいだ。
 トルーマンからオバマまで、歴代の大統領や有力政治家とユダヤパワーとの関係、関連が、リアルかつ、克明に書かれている。この本には書かれていないが、ユダヤパワー(ユダヤマネー)と日本の政治家との関連も、昔、書かれたことがあった。現在はどうなっているのかも気になるところだ。
 いまさら、政治の世界に頭をつっこむ気はないが、面白くも、恐ろしい世界でもあると、あらためて感じた。