「おくりびと」(Departures)

 アカデミー賞を取る前に見に行こうと思っていたのだが、行きそびれていた。幸い地元のMovixで再上映をしていたので、前売り券を買いに行った。東京では長い列ができているというので心配したが、そこはダさいたま、すんなりと良い席が買えた。
 3月5日平日の朝9:30開始だったが、ここのMovixの中で一番大きな映画館がほぼ満員になっていた。若い人もいたが、ほとんどがシニア世代だった。
 さすがアカデミー賞の外国部門賞を取っただけあって、素晴らしい映画だった。本木雅弘の演技はなかなかのものだが、助演の山崎努広末涼子、脇役の吉行和子笹野高史余貴美子等の演技も、皆、素晴らしく味わいがあった。
せりふも良かった。山崎努の「困ったことに・・・」というせりふや、笹野高史の「死は門だ」、というせりふが印象的だった。
 映画の感想はTVやWebで色々と語られているので書かないが、とにかく最初から最後まで泣ける場面が多かった。
 庄内平野、雪をかぶった鳥海山の風景、古い銭湯、納棺師の会社の建物、主人公の家など、どの映像もホンワリとした暖かさを感じる。都会人がどこかに置き忘れてきた大切なものを見せてくれている。
 昨今の殺伐とした世の中にあって、生と死の問題を納棺師という仕事、世界を通して現代人に問題提起した意義は大きい。
 この映画、アカデミー賞を取ってから、外国からの配給依頼が殺到しているという。英語の題名はDepartures、出発、旅立ち、門出という意味、depart this world、depart this lifeで、この世を去ると言う意味にはなるが、“おくりびと”というニュアンスではない。
 納棺師の山崎努が「うちの仕事は、キリスト教イスラムもヒンズーも仏教も関係ない」と言い、納棺師会社の3人や、笹野と吉行がクリスマスをやっている。ツリーもキリスト像もないクリスマス。西欧人が、この映像を見、せりふを聞いたらば、日本人の信仰、宗教についてどのように思うのだろうか。“生と死”の問題は世界共通である。葬儀の形式は、宗教の違い、お国柄で異なるのは当然だが、この映画が見せてくれたような、納棺の儀式、形式は、日本の繊細な文化の表現でもあると思う。
 不勉強で分からないが、この納棺の儀式というのは仏教だけでなく、儒教神道の影響もあるのではないかと思う。
 この映画をより多くの人が見て、日本人はいうまでもなく、外国人に、日本人の“やおよろずイズム”、“山川草木悉皆成仏”の“こころ”を理解して欲しいなと思った。
 以下の「おくりびと」のHPでこの映画をみた全国の視聴者の感動の声が掲載されています。
 http://www.okuribito.jp/
 この映画を見て、納棺師になりたいという人が増えたという。総理大臣の言動よりも、この映画の方が“世界を変える”力を持っているのではないだろうか。ベストセラーのように、話題になると敬遠するという主義の方もいますが、この映画は素直に見る価値のある映画だと、お勧めします。