「世界遺産から読み解く世界史」(田中英道:育鵬社)

 昨年6月に富士山が世界文化遺産に登録された。日本人としては喜ぶべきことだろう。塾でご指導を受けている田中英道先生が「世界遺産から読み解く世界史」という本を出版された。冒頭に、富士山が自然遺産ではなく、文化遺産として認定されたことを考えなくてはいけないと言う。つまり、富士山の自然としての美しさや雄大さが評価されたのではなく、富士山が持っている文化的な価値が評価されたのだ。富士山が神道のご神体として、宗教的な信仰の対象として、はるか昔の日本人からずっと遥拝されてきたことに対する評価だったのだ。
 縄文遺跡の富士宮市の千居遺跡(せんごいせき)には富士山の形を模したと思われる石庭があり縄文時代から富士山は敬われてきた。また、万葉集山部赤人高橋虫麻呂などによって、神の山と詠われている。葛飾北斎富嶽三十六景、歌川広重の富士三十六景、東海道五十三次などに描かれた風景画としての富士山はジャポニズムとして近大ヨーロッパに伝えられて、印象画の画家たちにも大きな影響を与えた。
 そういうことを含めて富士山の文化遺産認定を考え直さなくてはいけないのだろう。
文化遺産は759、自然遺産は193、複合遺産は29もあるという。この本は、そういう世界遺産との対比において、日本の文化遺産がどのような価値を持つのかを教えてくれ、考えさせてくれる。

世界文化遺産から読み解く世界史

世界文化遺産から読み解く世界史

 
ニュージーランド トンガリロ国立公園と富士山、ピラミッドとの対比
アッシジのフランチェスコ修道会と高野山
法隆寺パルテノン神殿アテネのアクアポリス
・タージマハルと宇治平等院
・サンティエゴ・デ・コンポステーラの巡礼路とお伊勢参り・四国お遍路
・ヴィッテンブルグ(ルター)と本願寺親鸞
モンサンミシェル厳島神社
・フィレンチェと奈良
・ヴァチカンのサンピエトロ大聖堂と東大寺大仏殿など

 私は外国の世界遺産にはほとんど行ったことがない。日本の遺産では厳島神社に行っていないが、その他にはそこそこ行っている。外国では、ボロブドール、ロンドン塔、トルコ、自由の女神しか見ていない。しかし最近はテレビであちこちの世界遺産を紹介する番組が多くいろいろと勉強させてもらった。
 田中先生の、実際に世界遺産を訪れた目を通して語られる、日本の世界遺産との比較、その違いと共通性の指摘には、なるほどと感心させられ、勉強になった。