[机草子]土用丑の日のウナギとオヤジの思い出

 実家が元料理屋だった。戦後の風俗営業取締法とかの影響もあり営業が継続できなくなり、店をたたんで引っ越し、小さな魚屋になった。料理屋をやっていたせいか、魚屋だけでなく、料理・仕出しの看板も出していた。そんなわけで、夏の土用のころには店先でウナギの蒲焼を作って売っていた。
 おやじが樽の中からウナギを取り出してまな板の上に載せ、目打ちで頭のあたりを刺し、指ですーっとウナギを伸ばす。それまで、体をグニャグニャとくねらせていたウナギがオヤジの指に従って、催眠をかけられたように、まっすぐになったまま動かない。後を継いだ兄貴がやると、ウナギはなかなかまっすぐにならない。私は小学生だったと思うが、いつも不思議にこの光景を見ていた。
 おそらく、目打ちでウナギの神経系統の急所を打って運動神経を麻痺させるのではないかと思う。兄貴はまだ十代で若く修行が足りないから、打ちどころが、1mm以下の単位で的を外しているのだと思った。
 飲んべーの親父は、酒を飲むと「職人の腕」を自慢していた。「お前は勉強なんかしないでいいから、魚屋になれ」とよく言っていた。私は6人兄弟の5番目、3男坊だったので、料理や包丁さばきはほとんど教えてもらえず、もっぱら配達専門の手伝いをやらされた。
 学生だった家人を店に連れて行った時に、家人はこのオヤジから、鰺の3枚おろしを教えてもらったという。私はまともに教わったことがない。そんなわけか、家人のほうが3枚おろしは上手なようだ。
 長女、長男は、寿司、テンプラ、鰻などを含めひととおりの日本料理を教えられたようだ。私も、寿司、ウナギの調理や、包丁さばきを教えてもらっていたら、途中で脱サラして、料亭「遍理」でもやっていたかもしれない。でも、Unchiku板前になって、客からうとがられて経営破たんしていただろうな。
 そんなわけで、土用丑の日はどういう意味なのか大分昔に聞いていたが、今回改めて調べてみた。元々土旺用事と言ったものが省略されたものだという。「木火土金水」の五行説を季節にも割り振ることを考えた人がいて、木:春、火:夏、金:秋、水:冬、と割り振ったら「土」が余ってしまった。そこで、「土の性質は全ての季節に均等に存在するだ!」とこじつけて、各季節の最後の18〜19日を「土用」としたという。
(これで1年の日数が均等に五行に割り振られたことになります)。
 今は土用というと夏だけですが本来は全ての季節に土用があります。土用は季節の最後に割り振られるので「土用の明け」は次の季節の始まる日の前日。(夏土用は、立秋の前の日に終わる)。
 異なる季節の間に「土用」を置くことで、消滅する古い季節とまだ、充分に成長していない新しい季節の性質を静かに交代させる働きをするそうです。
 また、丑の日はご存じ十二支の丑、各土用の中で丑の日にあたる日が「土用丑の日」、一般的には「夏土用の最初の丑の日」に鰻屋の祭り「土用丑」と称して鰻を食べる日ということになっています。
2回目の「土用丑」は皆疲れているのか、飽きるのか、あまり盛り上がらない。
 今年の土用の入りは7/20、土用明けは8/7、丑の日は7/30になるという。
 スーパーの店頭には「土用丑の日」の宣伝文句でウナギの蒲焼がたくさん並んでいる。昨日書いた、ワシントン条約による、うなぎの輸出入の制限の問題、中国産のウナギの問題などのある中で、消費者はどのようにウナギを買って食べるのだろうか。