「昆虫−驚異の微小脳」(水波誠:中公新書)
- 作者: 水波誠
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/08
- メディア: 新書
- 購入: 8人 クリック: 112回
- この商品を含むブログ (28件) を見る
副題にあるように、昆虫の微小脳、“一寸の虫にも五分の魂”というか、昆虫の脳は体積で1立方mm程の大きさでニューロンは100万程、人間の脳は1000億のニューロン、コンピューターでいうと人間がさしずめスーパーコンピューター、それに比べると、昆虫はノートパソコン程度という。最近のノートパソコンはかなりのことができるので昆虫の脳はたいしたものということになる。
この本を読んで、昆虫の脳の素晴らしさを再認識した。人間がなかなかハエやゴキブリを叩けないわけも分かったし、遠い生物の祖先をたどると、ハエもゴキブリも人間も、同じ原始生物から進化の枝分かれをしたという。
昆虫の眼はと言えば複眼ということになるが、バッタや蜂に3つの単眼があるとは知らなかった。ヤツメウナギのように中央眼を持つものや、二つの単眼を持つ昆虫もあるとのこと。
ギリシャ神話のオデッセウスも顔の中央に眼を持つ。そう言えば、お釈迦様の額の中央にも眼があり、仏眼と言うのを思い出した。ということになると、バッタ様は左右の複眼のほかに中央に単眼が3つ、仏様よりも世の中がより深く見えているのかもしれない!
昆虫の単眼は私たち人間の眼と異なり、明暗の変化しか検知できない単純な光受容器だけど、“空と大地のコントラストを検知している”と言う。それが昆虫の日周行動を決めることにも働いているという。
一方、昆虫の複眼は、空間分解能は人の数十分の一だが、時間分解能は数倍あるという。時間分解能とはどういう機能かと言うと1秒間に何回の明暗の変化を感じ取れるかということ。人間は15Hz〜60Hz、それに対し、ハエは150Hzの能力を持つ。この複眼の働きによって、昆虫の高速アクロバット飛行を視覚的に制御することに役立っているという。だから、人間様はハエをなかなか叩き落せないのだ!
この本、専門の学者さんがかなり細かく書いているので、素人にはちょっとくど過ぎるところが多い。しかし、昆虫と脊椎動物が中枢神経系の形成において、同一の遺伝子群が関っているとか、昆虫の色彩識別能力、嗅覚能力、形態認識能力等々、知らないこと、教えられるところ大でありました。
秋の夜、虫の音に耳を澄ましながら、昆虫の微小脳に思いを馳せるのも、亦、愉しからずや。