「フラジャイル」(松岡正剛:ちくま文庫)

 かなり読みごたえのある本だった。松岡正剛の「花鳥風月の科学」「遊学」などを読んで、読んでみようと思っていたがちょっと躊躇していた。今回、何からのきっかけか忘れたが読みたくなったので読んだ。
 フラジャイル=壊れやすきもの=弱さ=バルネラビリティー=傷つきやすさという視点、弱さ=フラジャイルのもつ新しい意味をいろいろな角度から、縦横無尽に分析している。
 網野善彦の「無縁・公界」、浅草弾左衛門、車善七、車寅次郎や清水次郎長など、博徒の話からヤクザの世界に及んだり、宮本常一赤松啓介民族学に触れたり、多田富雄の「免疫の意味論」、“複雑系”、ドーキンスの“利己的遺伝子”、同性愛に話が及ぶ。あらためて松岡正剛の博覧強記に、ただ驚嘆である。これらの人物や本がなんでフラジャイルに通じるのかは、読んでいただかないと一口では説明できない。
 “欠けた王”という章では、アキレス腱という致命的弱点のあるアキレウスのこと、古事記のヒルコの話、山田の中の一本足の案山子、隻履達磨、シンデレラなど、「欠けた王」から「欠けた足」「欠けた靴」とつながる話が世界中の神話、伝承、物語の中で取り上げられていることの紹介が興味深かった。松岡は能の「弱法師」も取り上げながら、欠けた王、欠けた足、欠けた靴など、「弱足の人類学」というべきものではないかと語っている。
 どの章も、次から次へと繰り出される、松岡の紹介する書籍、神話、物語、それらを松岡流に編集、料理する語り口に圧倒されるとともに、どのページも知的興奮を感じさせてくれた。
 この本を読み終えて、改めて、読まなくてはいけないなと思う本、読みたくなった本がいろいろと出てきた。宮本常一の「忘れられた日本人」などもすぐ読んでみたいし、網野善彦の関連本、能「弱法師」も観たいと思っている。

 あまりにも、多くのことが語られているので、わかりやすい読後感想が書けない。ご関心のある方は、以下の紹介文をご参照ください。
 強者の論理が大手をふるっている現代、“弱さからの出発”を真剣に考え直す時期に来ていると思う。ちょっと硬い本ですが、“弱さ”を考えるきっかけを与えてくれる、面白く、素晴らしい本だと思います。

フラジャイル 弱さからの出発 (ちくま学芸文庫)

フラジャイル 弱さからの出発 (ちくま学芸文庫)

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◆なぜ、弱さは強さよりも深いのか?なぜ、われわれは脆くはかないものにこそ惹かれるのか?“「弱さ」は「強さ」の欠如ではない。「弱さ」というそれ自体の特徴をもった劇的でピアニッシモな現象なのである。部分でしかなく、引きちぎられた断片でしかないようなのに、ときに全体をおびやかし、総体に抵抗する透明な微細力をもっているのである”という著者が、薄弱・断片・あやうさ・曖昧・境界・異端など、従来かえりみられてこなかったfragileな感覚に様々な側面から光りをあて、「弱さ」のもつ新しい意味を探る。